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「GIANT KILLING」 読書考

モーニング連載中の 「GIANT KILLING」 を読んで感じたことを書いていくブログです。単行本1~34巻までと、本誌2015年1号~最新号までのネタバレがありますのでご注意ください。
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副キャプテン、赤崎遼

今季よりETUの監督に就任した達海猛によって、新レギュラーとして抜擢された若手のうちの一人がMFの赤崎遼である。
赤崎は、春季キャンプ (2巻) の頃から一貫して 「勝ちたい」 と言い続けている。リーグ戦で引き分けが続き、それでも悔しそうな様子を見せない石浜修と清川和巳に対し、「ぬるい気持ちでやるなら他所でやってくんねぇか?」 と直接言い募った(6巻)ほど、勝利へのこだわりは強い。だが赤崎は、試合が思うように運ばなくとも決して監督批判をしない。それは達海監督の目指すサッカーが 「点を取る」 「勝ちに行く」 「攻撃的なサッカーをする」 という赤崎の望むスタイルに合致したためだろう。
赤崎が 「勝利のためにチームや練習方法を変化させていく」 という達海監督のやりかたに対して肯定的な見方をしていることは、「変わろうとしないで勝てるわけないっスよ」 という発言からも察せられる。チームが強くなるためならば、次々と新しいことに挑戦し、取り入れていこうという柔軟性が赤崎からは見て取れる。
その柔軟性こそが、長くETUに居続けたベテラン達と一線を画す大きな要素である。

ジャパンカップ敗退後、浦和レッドスター戦直前の更衣室で、ガブリエルが堀田健二に対して苦言を呈するシーンがある(29巻)。堀田は鹿島に2点の先制を許して以降、積極的に攻めようという意識を失い、安全なパスばかり送るようになって、勝負を仕掛けていかなかった。そのことをガブリエルは不満に感じ、チームメイトの前で堀田にぶつけた。ガブリエルの行動を皮切りに、他の選手たちも各々の不満を口にし始め、結果的にチーム内に潜んでいた 「去年と比べれば今季は充分すぎる成績を残している」 という意識の在り方、つまりは 「今季積み上げてきたはずの自分たちの実績や力量に対する信頼度のなさ」 をあぶり出す結果となった。

そこにいち早く反応したのもまた、赤崎だ。
赤崎は杉江勇作が 「これだけ勝ってもまだETUは、1部に残留してきたことしか自信にできないチームなのか?」 とチーム全体に問いかけたとき、真っ先に杉江の言いたいことを理解し、杉江の言葉を補足するように 「勝てない時に自分たちが立ち返る場所」 についての考えを話す。勝っている間は今季積み上げてきた実績の上にあった自信が、負けが続くと去年の段階まで戻ってしまう。しかし 「去年が15位だったから今年はよくやっている」 という考え方ではなく、今季は今季積み上げてきたものの上から再スタートを切るべきなのだ…と。
チームが連敗した時、選手たちが心に浮かべなければならなかったものは、去年の自分たちが今季ここまでやって来られているという謙虚さや消極的な自信ではなく、もっと必死になって勝ちをもぎ取りに行かなければという決意であったはずだ。

ただ赤崎はチーム内で 「去年から見ればよくやっている」 という話が上がった時に、明らかに賛同してはいない様子であるにも関わらず、杉江が反論の口火を切るまでは何も言わずに黙っている。赤崎があの段階で村越や丹波の意見に異を唱えたとしても、チームの、特にベテラン選手には響かないということを自覚していたのだろう。更に悪い方向に転べば、自分が発言することで、せっかくまとまりかけたチームを再びバラバラにしてしまう危険性があるというところまで考えていたかもしれない。

しかし副キャプテンに選出されると、赤崎は自ら積極的にチームを鼓舞し始めるようになる。副キャプテン就任直後の名古屋戦、同点に追いつかれて迎えたハーフタイムで声を荒げながらも 「もっと気持ち出そうぜ」 とチーム全員にハッパをかけ、後半戦で夏木がゴールを決めると 「ナイスゴールだナツさん」 と声をかける。更に首位大阪との対戦では、ガブリエルに 「今のうちにガンガンボール呼び込んで仕掛けていけよ」 とアドバイスまでするようになった。

連載開始当初から赤崎は一貫して 「先輩に対しても言いたいことを言う」 キャラとして描かれてはいるが、副キャプテン就任前後での行動の違いからも読み取れるように、実はとてもチーム内に気を配っているし、先輩のことを立ててもいる人物だ。
赤崎のそういった点は、副キャプテンに指名される以前にも折に触れて描かれている。椿大介と共にU-22日本代表に選出された際(27巻)、記者からの質問に 「自信がない、嬉しかったかどうかもわからない」 と答えた椿に対して赤崎は 「選んでくれた人の面目や、選ばれなかった選手の気持ちを考えたことあるのか」 と厳しい言葉で叱責する。これは赤崎自身が、選ばれなかった先輩も居る中で自分は選ばれたという事実の重みをきちんと理解していなければ取れない行動だし、五輪予選からチームに戻ってきた際にも、連敗を喫した先輩たちがカラ元気で切り替えようとしている様子を見て 「連敗中チームに居なかった自分たちがチームをいい雰囲気にもっていかねえと」 と椿に呼びかけてもいる。

赤崎は言葉が強く、言いすぎてしまう若さもあるので、先輩への敬意やチームへの配慮が見えにくい。しかし言動のふてぶてしさとはそぐわずに、赤崎のチームに対する視線は常に客観的で冷静である。その冷静さが自分自身にも同じように向けられているところがまた、赤崎の長所でもある。

共にU-22日本代表に選ばれた椿大介がA日本代表に選ばれたとき、赤崎は選考メンバーから漏れた。しかし赤崎は椿に対して嫉妬するでも焦るでもなく、事実をそのままに受け止めている。自分の可能性を信じているようだが、実力を過信してはいない。U-22代表戦からの帰りのバスの中で赤崎は椿に 「俺のライバルとして認定してやるよ」 と告げたが、ぶっきらぼうな口ぶりからは想像もつかないほど、その時の自分の発言に誠実に振舞い、椿が自分の先を進むことになっても、決して腐った様子は見せない。その姿、意識の有りようはとても潔い。

赤崎には常にチーム内での自分の立ち位置や、成すべきことが見えているのだろう。強くなるための課題を見つけ出す芯の強さと、変化をありのまま受け止める柔軟さを持ち合わせた赤崎が、チーム内での発言権を得たことで今後どのように変化していくのか、どのようにチームを変え得る存在になっていくのか、彼の今後の活躍に期待は膨らむばかりだ。
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進化するベテラン勢

達海猛が監督に就任してETUのスタメンは大きく入れ替わった。
それまではベテランが中心のチームだったが、ベテラン組と若手組に別れての紅白戦や、夏キャンプ(2巻)、プレシーズンマッチを経て迎えた開幕戦では、椿大介、赤崎遼、清川和巳、世良恭平などの若手選手がスタメンに顔をそろえ、堺良則、石神達雄、堀田健二などのベテランが若手と入れ替わる形でベンチを温めることとなった。

作中、キャプテンの村越茂幸が、十年もの長期に渡りチームを引っ張ってきたことは繰り返し描かれているものの、同じくベテランと言われる年齢に達した他の選手について描かれることは少ない。作画の中で「SPEED STAR」という堺の横断幕が見られること(3巻)、川崎フロンティア戦で相手チームのGKである星野が「堺さんが去年までより嫌な動きをするFWになってきてるってことは認めざるをえない」と言っていること(23巻)などから、過去のプレースタイルを想像するのみである。

だが、作中に描かれていないだけで、この選手たちにも当然若手の頃はあった。
毎年残留争いをしていると言われ、監督にも勝ち星にも恵まれず、それでもサッカーを続けてきたサッカー愛の強い選手たち。今シーズン、達海が監督に就任したことでチームは白星を重ねることが出来ているが、彼らは既に三十前後であり、選手としての未来は決して長いとはいえない。今まさに伸び盛りの椿や赤崎、世良とは根本的に事情が違う。若手選手よりも圧倒的に引退が近づいている、その選手生活の中で、やっと勝てるサッカーが出来るようになった。それが今シーズンのベテラン組だ。

堺良則は達海猛が監督に就任してから、同じFWの世良恭平にポジションを奪われた。
世良の持ち味は「プレーに迷いがないこと」と「スピード」であるのだが、堺もかつては足の速さが持ち味の選手だったことがうかがえる。だが堺自身「夏木の勝負強さもお前のスピードも俺はもう持ってない」と語っており、また1巻の30mダッシュで達海の選抜したレギュラー候補組に選ばれなかったことからも、既にその持ち味は失われているようである。
堺は今季、プレースタイルを変えた。
世良によると「去年まではもうちょい感情出してプレーしてた」(10巻)ようだが、本人曰く「相手の嫌なところを突く自分なりの戦い方」を模索し(11巻)、達海監督に「ゴール前でも冷静でいられる」と言われる選手になった。

堺は「選手としてのピークは越えたかもしれない」と自覚してはいるが、決して諦めてはいない。
本人が直接世良に告げたとおり、FWとして「負けるつもりはさらさらない」。
かつての武器であった足の速さで若手に勝てなくなろうとも、選手としての可能性を模索し続け「周りの能力を引き出してやる、状況に応じてチームのためのプレーをする、それがここで生き残るための今の俺のFWとしての牙のむき方なんだ」(24巻)と、自分を律する堺らしい方法で、堺自身の新たな武器を見つけ出した。

一方、MFの堀田健二もまた、若手の椿大介に自分のポジションを奪われ、ベンチに下がったベテラン組のうちの一人である。
そのことを堀田自身「いつかこんなシーズンが来る気はしてた」と甘んじて受け入れている面もあったが、好不調の差が激しい椿の様子に「サッカーの上手さで言えば俺の方が上、監督も今に気づいて俺を使う」と期待を寄せてもいた。しかし、その期待は椿の気迫あふれるプレーによって打ち砕かれる。自分のポジションは、椿に奪われるべくして奪われたと悟るのである。

そんな堀田に対してDFの石神達雄は「今季のウチってなかなかいいチームだと思わない?」と語りかける(11巻)。名古屋グランパレスと大阪ガンナーズに勝利したのちの、川崎フロンティア戦でのことだ。彼もまた、若手の石浜修に右SBというポジションを奪われている。
石神は堀田にこう続ける。
「長いことお前らとこのチームでやってきたけど、こんなシーズン今までなかったろ。今までパッとしないシーズンを何度も繰り返してきてさ…、いいときになって乗り遅れるってのも、なんかシャクじゃねぇのよ」

石神にはわかっていたのだろう。今まさに自分たちベテランが岐路に立たされているということを。今シーズン調子を上げてきたETUというチームから取り残されないようにするためには、自分たちも若手と一緒に成長するしかない。そうすることでしか試合には出られないし、勝つことは出来ないのだと。
だからこそ「キックの精度が少しよくて、ちょっとしたボールキープが出来るだけ」と自己の可能性をしばり、リスクを避けて安全なパスばかり選んでいた堀田に対し「ミスキックになっても知らねえぞ」と言わしめるようなパスを要求して、得点へと繋げてみせた。
そして堀田もまた石神の言葉とそれに続くプレーを足掛かりに自分の殻を脱し、己のテクニックを積極的に攻撃へと活用していくよう意識を改めた。

堺にしても、石神や堀田にしても、彼らは自分たちに残された時間がそう長くはないことを自覚しながら、それでもチームにとって必要な選手であり続けるために自分を、そしてプレーを変えた。そのサッカーへの情熱がETUというチームの戦力を底上げする。
「いいときになって乗り遅れるってのも、なんかシャクじゃねぇのよ」という石神の言葉から察するに、今季の「勝てる」ETUのサッカーは、長年低迷していたチームを支え、耐え忍んできたベテラン組にとって楽しいものに違いない。
その「楽しい」サッカーを一年でも長く続けてほしいと願ってやまない。

ジーノからのプレッシャーを乗り越えたエースストライカー

夏木陽太郎はETUのFWであり、昨シーズンは怪我で途中離脱したにも関わらず、チーム内で最多得点を記録した選手でもある。
そのまま試合に出続けていれば得点王争いに食い込めるのではないかと松原ヘッドコーチが期待するほど好調でもあったが、試合中膝に怪我を負ってからは、8か月間もの長期に渡りチームを離脱した。

そして達海猛新監督を迎えた今季序盤、数試合を経たところで怪我から復帰すると、復帰戦となった浦和との試合でゴールを決めてチームを同点へと追いつかせ(6巻)、ウィッセル神戸戦で派手なバイシクルを放ち(11巻)、名古屋グランパレス戦では人数の欠けた苦しい状況の中、見事なボレーシュートを決めてチームに希望をもたらすといった(32巻)、怪我でのブランクを全く感じさせない活躍をしている。

そんな夏木はジーノから「悩みがない人って羨ましいよね」と言われるほどポジティブなキャラとして描かれてはいるが、夏木のエピソードを追いかけてみると、サッカーに関しては非常に真面目な選手であることがうかがえる。

リーグ戦前半の大阪ガンナーズ戦(8巻)直前、夏木は達海猛監督にこう打ち明ける。
「なんか時々俺にパスよこさなくなるんスよ、ジーノの野郎」と。
夏木はジーノのことを「すぐシュートを打ちに行くFWは嫌い」だと思っており、それをイジメだと訴えるが、達海監督は夏木に「お前にはFWとしての決心が足りない」と返し、更には「味方が必死になってつないできた魂のこもったボール、それは夏木にとってチームのボールか? お前のボールか?」と問いかける。
夏木は答えを模索し、試合中もずっと迷い続けることとなる。

「あれはチームのボールだ、俺のボールなんて言っちゃあならねえ」と一度は結論を出し、チームのためにプレーすることを決断するものの、ゴール際でどうしても迷いを消すことが出来ない。
試合は当然切れ間なく進行しており、迷いがそのまま判断の遅れにつながってしまう。
監督が夏木の様子に気づき、夏木を下げるためにサブをアップさせ始めた頃になって、ようやく夏木は迷いを打ち捨てる。そしてストライカーとしての本能のまま積極的にシュートを打ちにいき、ゴールは決められないながらも敵のDF陣を引き付けることによって赤崎遼のためにシュートコースを開かせた。

このプレーで夏木は「自分がゴールを狙っていくことで、味方を活かせることもある」と確認するに至る。
そして「俺はやっぱり常にゴールを狙うFWでいたい」という思いを新たにする。

夏木にプレッシャーを与え続けていたジーノはのちに「ボクのことを王のように崇めてばかりで要求のひとつも出来ないこの集団の習性を嘆くべきだよ」と発言するのだが(30巻)、上記の大阪ガンナーズ戦での夏木もジーノにとっては「ボクのことを王のように崇めてばかりで要求のひとつも出来ない」選手たちの中の一人だったはずだ。
だが、ジーノの言葉を受けて椿大介が初めての要求をする(33巻)よりもずっと以前のモンテビア山形戦(22巻)で、既に夏木はジーノにPKを「お前が蹴れ」と要求するまでに成長している。
「ゴールは決められないまでも、俺は俺の仕事はしたぜ。今度はお前が自分の仕事しろよ10番!」と。

ジーノの「王」発言は、ジーノに対して堂々と何かを要求できるだけの働きをチーム内の誰もがしなければ勝てるチームにはなれない、という趣旨だったのではないだろうか。しかし、ジーノがそれを口に出す以前に夏木が自らそれを実践してみせたことは、ジーノにとっても予想外の出来事だったに違いない。

もちろん夏木はFWだから得点力を一番に求められるが、FWの仕事はそれだけではなく、またその「それだけではない部分」を全うするということに於いては、ジーノがパスを寄越そうが寄越すまいが関係がない、というところまで突き抜けたように見えた。

夏木はFWとして「自分の仕事」を貫こうとしている。
リーグ戦後半、チームが三連敗している中で迎えた雨天の名古屋グランパレス戦(32巻)。
黒田が退場し、スコアも1-3という追い詰められた状況でありながら、夏木はチームに漂う重苦しい空気を打ち破るように豪快なシュートを決めて1点差まで追い上げ、更にその後、キーパーに弾かれたジーノのシュートをヘッドでゴールに押し込んだ。
だが夏木はそれでもなお、自分を許してはいない。 
「まだだ、まだまだだ、こんなものじゃ足りない。足りなさすぎる…!!」そう心の中で叫んでいる。

「仲間が繋いできたボールはチームのボールか、自分のボールか」と問われ(8巻)、「監督の言うFWとしての決心てのが何なのかはよくわかんねーけど、俺はやっぱり常にゴールを狙うFWでいたい」と願望の形で一旦はおさめられた夏木の答えが、33巻目にしてやっと「パスを繋いできてくれる仲間の思いに応えるために、俺はもっともっとゴールを決める」という夏木自身の言葉で示された。
夏木の「願望」は、ジーノからのプレッシャーを乗り越えて、FWとしての「信念」へと変化したのだ。

不格好と言われながらも、時に膝が折れかけようとも、そのたびに立ち上がり、諦めず全力でゴールを奪いに行く。ここ一番というところでゴールを決め、見る者を、そしてチームをポジティブな気持ちにさせる。そんなひたむきな夏木の姿は、まさにETUのエースストライカーと呼ぶに相応しい。



夏木がモンテビア山形戦でもぎとったPKをジーノに「お前が蹴れ」と要求したさい、ボールを探しているガブリエルに夏木は「すまねぇガブリエル、お前のPKの上手さは俺は身をもって知ってるけどよ、このボールは渡せねぇ」と発言している。この「身をもって」というのが、夏合宿で夏木がGKをやっていた時のPKのことだと気付いた時に、どシリアスなシーンにもかかわらず笑ってしまった。初見では気づきにくい、こういったネタが随所にあることもまた、GIANTKILLINGの魅力のひとつである。

黒田一樹の村越茂幸への憧れと、村越茂幸のDF陣への信頼

黒田一樹は身長が170cmという、CBとしては小柄な選手である。
ETUトップチームの選手の中でも166cmの世良恭平(FW)に次いで身長が低い。
この身長はDFとしてディスアドバンテージとなり得るものだが、黒田は「闘志」でこれを乗り越えてきたと、同じCBで相棒の杉江勇作は回想している(8巻)。

達海猛監督就任直後、達海監督の考えたサッカーテニスという練習をボイコットし、そのペナルティとしてベンチ外の扱いを受けた黒田は、同じくベンチ外になった杉江に「俺はデカくねぇし、テクニックもねぇからよ、当たりで負けねぇのと、ガムシャラにボールを奪うことだけはチームで一番の選手を目指してきた」と語っている(4巻)。更に大阪ガンナーズ戦でマンマークについた、自分よりも20cmも上背のあるハウアーに対し、「俺みたいに背のないCBはな…テメエみたいのだけには負けらんねえんだよ!」と闘志をあらわにしているところから、黒田という選手はCBとして自己の身長の不足に、相当に折り合いをつけてやってきた人なのではないかと考えられる。
折り合いをつける過程で、おそらく体格に恵まれた選手を羨ましいと感じたこともあっただろう。

特にキャプテンの村越茂幸である。
村越は敵チームの選手と競った時であってもコーチ陣から「村越が当たりで負けるか!」と言われる(17巻)ほどフィジカルに恵まれた選手で、コミックス内でも当たり負けている様はほぼ描かれない。
この村越を黒田は、松原コーチに「村越派」と言われたり、「どんな時でも村越についてきたような連中」と評されるほど尊敬しているのだが、以前MFの椿大介がゲームキャプテンに選ばれたさい(10巻)、キャプテンマークを巻くのが「何故俺じゃねぇ…」と発言していることから考えても、体格に恵まれ、代表候補になるほど技術もあり、チームのキャプテンである村越茂幸という選手はただ単に「尊敬する選手」というだけではなく、黒田にとっては憧れる選手像そのものなのではないかという印象を受ける。

村越は17巻の港経済大学との練習試合でカウンターを取られ、それがPKからの失点につながってしまったことを反省し、黒田に「もう少し奪われた時のカウンターにも気を配る」と謝った。そんな村越に黒田は「後ろはいいから点撮ってきてくれ!! あっちの攻撃は俺が潰しますよ」という言葉を返したのだが、その言葉はつまり「DF陣をもっと信用してくれ」という意味に他ならない。

村越は黒田の言葉で「点を取るためにリスクを冒すこと」、そしてリスクを冒して前に出るために「後ろに居る仲間を信じ切ること」が自分には足りていなかったのだと気付き、自ら敵陣へと切り込んで、見ている者を圧巻させるような見事なシュートを放った。

村越が迷いを振り切ってシュートを打ちに行ったあの瞬間は、村越茂幸というプレイヤーがひと皮剥けた瞬間だったが、それ以上に、ずっと村越を信じて力を尽くしてきた黒田が、そしてETUのDF陣が、初めて村越からの信頼を勝ち取った瞬間でもあったように思う。

村越は心の中で起こった葛藤を言葉で表現してはいないから、どこまで黒田に伝わったかはわからない。だが、村越の決めたゴールひとつで子供のように興奮している黒田を見ると、村越に対する強い憧れと尊敬がストレートに伝わってくるようで胸が熱くなる。

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