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「GIANT KILLING」 読書考

モーニング連載中の 「GIANT KILLING」 を読んで感じたことを書いていくブログです。単行本1~34巻までと、本誌2015年1号~最新号までのネタバレがありますのでご注意ください。
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ジーノからのプレッシャーを乗り越えたエースストライカー

夏木陽太郎はETUのFWであり、昨シーズンは怪我で途中離脱したにも関わらず、チーム内で最多得点を記録した選手でもある。
そのまま試合に出続けていれば得点王争いに食い込めるのではないかと松原ヘッドコーチが期待するほど好調でもあったが、試合中膝に怪我を負ってからは、8か月間もの長期に渡りチームを離脱した。

そして達海猛新監督を迎えた今季序盤、数試合を経たところで怪我から復帰すると、復帰戦となった浦和との試合でゴールを決めてチームを同点へと追いつかせ(6巻)、ウィッセル神戸戦で派手なバイシクルを放ち(11巻)、名古屋グランパレス戦では人数の欠けた苦しい状況の中、見事なボレーシュートを決めてチームに希望をもたらすといった(32巻)、怪我でのブランクを全く感じさせない活躍をしている。

そんな夏木はジーノから「悩みがない人って羨ましいよね」と言われるほどポジティブなキャラとして描かれてはいるが、夏木のエピソードを追いかけてみると、サッカーに関しては非常に真面目な選手であることがうかがえる。

リーグ戦前半の大阪ガンナーズ戦(8巻)直前、夏木は達海猛監督にこう打ち明ける。
「なんか時々俺にパスよこさなくなるんスよ、ジーノの野郎」と。
夏木はジーノのことを「すぐシュートを打ちに行くFWは嫌い」だと思っており、それをイジメだと訴えるが、達海監督は夏木に「お前にはFWとしての決心が足りない」と返し、更には「味方が必死になってつないできた魂のこもったボール、それは夏木にとってチームのボールか? お前のボールか?」と問いかける。
夏木は答えを模索し、試合中もずっと迷い続けることとなる。

「あれはチームのボールだ、俺のボールなんて言っちゃあならねえ」と一度は結論を出し、チームのためにプレーすることを決断するものの、ゴール際でどうしても迷いを消すことが出来ない。
試合は当然切れ間なく進行しており、迷いがそのまま判断の遅れにつながってしまう。
監督が夏木の様子に気づき、夏木を下げるためにサブをアップさせ始めた頃になって、ようやく夏木は迷いを打ち捨てる。そしてストライカーとしての本能のまま積極的にシュートを打ちにいき、ゴールは決められないながらも敵のDF陣を引き付けることによって赤崎遼のためにシュートコースを開かせた。

このプレーで夏木は「自分がゴールを狙っていくことで、味方を活かせることもある」と確認するに至る。
そして「俺はやっぱり常にゴールを狙うFWでいたい」という思いを新たにする。

夏木にプレッシャーを与え続けていたジーノはのちに「ボクのことを王のように崇めてばかりで要求のひとつも出来ないこの集団の習性を嘆くべきだよ」と発言するのだが(30巻)、上記の大阪ガンナーズ戦での夏木もジーノにとっては「ボクのことを王のように崇めてばかりで要求のひとつも出来ない」選手たちの中の一人だったはずだ。
だが、ジーノの言葉を受けて椿大介が初めての要求をする(33巻)よりもずっと以前のモンテビア山形戦(22巻)で、既に夏木はジーノにPKを「お前が蹴れ」と要求するまでに成長している。
「ゴールは決められないまでも、俺は俺の仕事はしたぜ。今度はお前が自分の仕事しろよ10番!」と。

ジーノの「王」発言は、ジーノに対して堂々と何かを要求できるだけの働きをチーム内の誰もがしなければ勝てるチームにはなれない、という趣旨だったのではないだろうか。しかし、ジーノがそれを口に出す以前に夏木が自らそれを実践してみせたことは、ジーノにとっても予想外の出来事だったに違いない。

もちろん夏木はFWだから得点力を一番に求められるが、FWの仕事はそれだけではなく、またその「それだけではない部分」を全うするということに於いては、ジーノがパスを寄越そうが寄越すまいが関係がない、というところまで突き抜けたように見えた。

夏木はFWとして「自分の仕事」を貫こうとしている。
リーグ戦後半、チームが三連敗している中で迎えた雨天の名古屋グランパレス戦(32巻)。
黒田が退場し、スコアも1-3という追い詰められた状況でありながら、夏木はチームに漂う重苦しい空気を打ち破るように豪快なシュートを決めて1点差まで追い上げ、更にその後、キーパーに弾かれたジーノのシュートをヘッドでゴールに押し込んだ。
だが夏木はそれでもなお、自分を許してはいない。 
「まだだ、まだまだだ、こんなものじゃ足りない。足りなさすぎる…!!」そう心の中で叫んでいる。

「仲間が繋いできたボールはチームのボールか、自分のボールか」と問われ(8巻)、「監督の言うFWとしての決心てのが何なのかはよくわかんねーけど、俺はやっぱり常にゴールを狙うFWでいたい」と願望の形で一旦はおさめられた夏木の答えが、33巻目にしてやっと「パスを繋いできてくれる仲間の思いに応えるために、俺はもっともっとゴールを決める」という夏木自身の言葉で示された。
夏木の「願望」は、ジーノからのプレッシャーを乗り越えて、FWとしての「信念」へと変化したのだ。

不格好と言われながらも、時に膝が折れかけようとも、そのたびに立ち上がり、諦めず全力でゴールを奪いに行く。ここ一番というところでゴールを決め、見る者を、そしてチームをポジティブな気持ちにさせる。そんなひたむきな夏木の姿は、まさにETUのエースストライカーと呼ぶに相応しい。



夏木がモンテビア山形戦でもぎとったPKをジーノに「お前が蹴れ」と要求したさい、ボールを探しているガブリエルに夏木は「すまねぇガブリエル、お前のPKの上手さは俺は身をもって知ってるけどよ、このボールは渡せねぇ」と発言している。この「身をもって」というのが、夏合宿で夏木がGKをやっていた時のPKのことだと気付いた時に、どシリアスなシーンにもかかわらず笑ってしまった。初見では気づきにくい、こういったネタが随所にあることもまた、GIANTKILLINGの魅力のひとつである。
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