黒田一樹は身長が170cmという、CBとしては小柄な選手である。
ETUトップチームの選手の中でも166cmの世良恭平(FW)に次いで身長が低い。
この身長はDFとしてディスアドバンテージとなり得るものだが、黒田は「闘志」でこれを乗り越えてきたと、同じCBで相棒の杉江勇作は回想している(8巻)。
達海猛監督就任直後、達海監督の考えたサッカーテニスという練習をボイコットし、そのペナルティとしてベンチ外の扱いを受けた黒田は、同じくベンチ外になった杉江に「俺はデカくねぇし、テクニックもねぇからよ、当たりで負けねぇのと、ガムシャラにボールを奪うことだけはチームで一番の選手を目指してきた」と語っている(4巻)。更に大阪ガンナーズ戦でマンマークについた、自分よりも20cmも上背のあるハウアーに対し、「俺みたいに背のないCBはな…テメエみたいのだけには負けらんねえんだよ!」と闘志をあらわにしているところから、黒田という選手はCBとして自己の身長の不足に、相当に折り合いをつけてやってきた人なのではないかと考えられる。
折り合いをつける過程で、おそらく体格に恵まれた選手を羨ましいと感じたこともあっただろう。
特にキャプテンの村越茂幸である。
村越は敵チームの選手と競った時であってもコーチ陣から「村越が当たりで負けるか!」と言われる(17巻)ほどフィジカルに恵まれた選手で、コミックス内でも当たり負けている様はほぼ描かれない。
この村越を黒田は、松原コーチに「村越派」と言われたり、「どんな時でも村越についてきたような連中」と評されるほど尊敬しているのだが、以前MFの椿大介がゲームキャプテンに選ばれたさい(10巻)、キャプテンマークを巻くのが「何故俺じゃねぇ…」と発言していることから考えても、体格に恵まれ、代表候補になるほど技術もあり、チームのキャプテンである村越茂幸という選手はただ単に「尊敬する選手」というだけではなく、黒田にとっては憧れる選手像そのものなのではないかという印象を受ける。
村越は17巻の港経済大学との練習試合でカウンターを取られ、それがPKからの失点につながってしまったことを反省し、黒田に「もう少し奪われた時のカウンターにも気を配る」と謝った。そんな村越に黒田は「後ろはいいから点撮ってきてくれ!! あっちの攻撃は俺が潰しますよ」という言葉を返したのだが、その言葉はつまり「DF陣をもっと信用してくれ」という意味に他ならない。
村越は黒田の言葉で「点を取るためにリスクを冒すこと」、そしてリスクを冒して前に出るために「後ろに居る仲間を信じ切ること」が自分には足りていなかったのだと気付き、自ら敵陣へと切り込んで、見ている者を圧巻させるような見事なシュートを放った。
村越が迷いを振り切ってシュートを打ちに行ったあの瞬間は、村越茂幸というプレイヤーがひと皮剥けた瞬間だったが、それ以上に、ずっと村越を信じて力を尽くしてきた黒田が、そしてETUのDF陣が、初めて村越からの信頼を勝ち取った瞬間でもあったように思う。
村越は心の中で起こった葛藤を言葉で表現してはいないから、どこまで黒田に伝わったかはわからない。だが、村越の決めたゴールひとつで子供のように興奮している黒田を見ると、村越に対する強い憧れと尊敬がストレートに伝わってくるようで胸が熱くなる。
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